霊感少年とメリーさん


有奈の用事が終わり、メリーが待っている中庭へと向かう陽一。中庭に着くと、メリーが何処に居るのか分からず、キョロキョロしながら探す。

すると、先ほど見たことのある大きな霊結石の木の下にメリーが居た。メリーを見つめた陽一は、走って駆け寄る。

一方、メリーは陽一に気がついておらず、霊結石の木をボーと眺めていた。陽一は、気付いてもらおうと、声をかけようとした途端。

ザァァと、強い風が吹き抜けた。あまりにもの強い風で、木がザワザワと激しく揺れながら、無数の翡翠色の葉っぱを落としていく。

翡翠色の葉っぱが落ちていく中、メリーはとても悲しそうな表情で木を見上げていた。

見た目は、自分と変わらない幼さを持っているのに、その表情は何処か大人びていて、悲しげな瞳で木を見続ける。

いつもと違う表情に、ドキリと陽一の心臓が跳ねる。その衝動に戸惑っていると、メリーが陽一に気が付いて駆け寄った。

「お疲れ様。今日一日、いろいろあって疲れたでしょ?」

メリーは、陽一に気遣いながら声をかける。すると、陽一は、はっと伝えたいことを思い出して、慌てて右手をメリーに差しだす。陽一の行動に、メリーは首を傾げる。

「何してるの?」
「何って、今から自己紹介するんだよ。俺とお前は、パートナーになったんだ。こういう事は、きちんとしておかないとな」

陽一の言葉を聞き、メリーは驚いて大きく目を見開く。

自分の自己満足のために、あんな嘘をついてまで騙そうとした。なのに、少年は何の疑いもなく、自分に優しくしてくれるのか……。

ただ、メリーは、陽一に嘘をついた事に強い罪悪感を持つ。

「俺の名前は、織原 陽一だ。俺の事は、陽一でいいから」

一方、陽一はメリーのことはお構いなく、ただ純粋にメリーに接する。あまりにも、無邪気な笑顔で自分の名前を名乗る陽一を見て、さらに罪悪感が強くなる。

メリーは、このまま名前を名乗っても良いのか、迷ってしまった。なぜなら、陽一はボス達の前で自己紹介をしているのにも関わらず、もう一度メリーにだけ自己紹介をする。

陽一が、メリーに心を許し始めていることを示していたのだ。その行動の意味を知っているからこそ、心に迷いが生まれた。このまま親しくなっても良いのかと。

もちろん、陽一と親しくなりたい。そして、誰よりも陽一の傍で守り続けたい。だけど、それは自分の都合であり、陽一にとったら迷惑な話なのだ。

そんな事を考えていると、陽一と目が合う。何処までも純粋に真っ直ぐとメリーを見詰める陽一の瞳から、逃れることが出来ない。そして、意志と反して、口は少し震わせながら開いていく。

『……G.S.Sのメリーよ。よろしくね“陽一”』

きつく胸が締め付けられるのを耐えながら、握手を交わす。自分の手よりも、少しだけ大きい手を強く握る。

「よろしくな、メリー!」

またしても、無邪気な笑顔で己の名を呼んでくれる嬉しさ反面、悲しくなってしまった。

握手から伝わってくる、陽一の手の温もりは、今のメリーにとっては拷問だった。ただ、メリーは複雑な感情を抱いたまま握手を握り返した。




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