Dear my Dr.
悠ちゃんは言う。

「…本当のことを言うと、僕のことを忘れられないって言われたんだ」

きっと、私が見てしまったあの場面のことだろう。

明らかに距離の近い2人だったから。

「でも…僕には、守ってあげたい大切な人がいるから…」

その言葉に、ウソはないよね?

信じてもいいよね?

「彼女も、きっと分かってたんだと思う。すぐに割り切って、仕事の話になったよ」

「仕事って??」

「人工呼吸器を取り扱ってるメーカーの社員らしいんだ。今度うちの病院でも、新しい機種を入れるって話があるから、それを嗅ぎつけてたんだろうね」

悠ちゃんは苦笑いする。

「営業トークに押されまくりだよ」

「…ホントに人が良いんだから」

「ごめん、誤解させたよね」

「そりゃ…するよ…」

悠ちゃんは誰にでも優しいから。

気付いたら誰かに持って行かれてしまいそうで、不安になるよ。

「それに今は他の営業の人とペアで来てるから、2人きりで会うってことはないよ」

私が心配していたことを、先回りして答えた。

…だって、妬けちゃうよ。

隣に座った悠ちゃんの目を見る。

「信じていい?」

「うん、信じてください」

「…わかった」

心地いい仲直りのキス。

心なしか、いつもよりゆっくり。

凝り固まった私の心を、やさしく溶かすみたいに。

「…ねえ、美波」

「うん…?」
< 111 / 120 >

この作品をシェア

pagetop