Dear my Dr.
うちはあまり旅行しない家族だったから、ホテルに泊まるなんて久しぶり。

エレベーターのドアが開くと、専用フロントのスタッフが静かに出迎える。

部屋までエスコートしてくれるらしいけど、今日一度チェックインしてるし、部屋の場所もわかってるのに…。

そういうの慣れなくて、断った。

エグゼクティブラウンジを抜けて、ひとりで廊下を進み、たどり着く。

カードキーを差し込んで、大き目のドアを押し開ける。

ふんわりと良い香りがした。

後ろでドアが閉まると、一気に静か。

目の前に広がるのは、一面の夜景。

明るいときには気づかなかったけれど、広い広い窓の下には、街の明かりが星空のように輝いていた。

「……キレイ」

思わずつぶやく。

悠ちゃんもびっくりするだろうな。

そう思いながら、リビングの大きな窓に近づいて、外の景色を見ていた。

…やっと、

終わった。

急に肩の荷が下りたみたい。

伊崎家の娘として、果たすべき役割は果たしたはず。

家と家のつながり、人と人のつながりは、今後大きな財産になる。

あとは…その繋がりの中心である悠ちゃんと、どう生きていくか。

私は、いい妻になれるだろうか?

ただの奥さんじゃない。

横のつながりが大事な、医者の世界の、影で支えるパートナーだ。







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