Dear my Dr.
優しくて、笑った顔がかわいくて、私を大事にしてくれる悠ちゃんが好きだった。

なにしろ、恋愛偏差値の低い私。

ある意味洗脳かもしれないけど、婚約者だと思うと、ますます好きになった。

会えば会うほど。

触れれば触れるほど。

婚約者だと聞かされた時には、“悠哉くんならアリかも”くらいにしか思っていなかったのに。

今では、悠ちゃんのいない人生なんて、考えられないほどになってるのに…。

ドアが開いて、女子高生は降りて行った。

きっとあの子も、あの坂道を通って、あの角を曲がって、あのアーチ型の校門をくぐるのだろう。

なつかしいな…。

それから3駅すぎて、実家に近い駅で降りる。

にぎやかな駅前を抜けて、しばらく山側に向かって歩けば閑静な住宅街。

世間からは、高級住宅街って言われて、新旧いろいろ大きな家が立ち並ぶ。

その中に“伊崎”の表札を掲げた、生まれ育った家がある。

「…ただいまー…」

そぉっと玄関をあけて、家の中に入ると懐かしい匂い。

「美波!?」

キッチンにはパンを焼いてる途中のお母さん。

一瞬驚いた顔をしたけど、次の瞬間、痛いくらいに抱きつかれた。

「会いたかった~!あ、手が粉だらけなのにっ!」

あわてて手を拭いてるけど、それ、もう遅いから…。

「どうしたの?」

「ん、忘れ物とりに来たの」

「忘れ物~?」

「色々、薬とか書類とか」

「そう。お昼、食べてくでしょ?お昼過ぎにはクロワッサンも焼き上がるし」

変わらないお母さん。

心身ともに弱ってるせいか、泣きそうになる。

でも泣いたら心配するだろうから、涙がでないように堪えた。



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