Dear my Dr.
時間が止まればいい、と思った。

今、このキスが、この瞬間が、永遠であってほしいと。

悠ちゃんのキスが好き。

ついばむように、何度も。

そんな合間に、悠ちゃんはそっとつぶやいた。

「…この世で一番、美波を愛してるのは僕だって、胸を張って言えるよ」

なんでそんなに切ない表情するの?

胸が苦しい。

「…ついて行きたい」

どこにだって、付いて行く。

悠ちゃんだから、アメリカでも、南極でも、宇宙でも。

それなのに…

悠ちゃんは、首を縦には振らなかった。

ただ、目を閉じて、うつむいた。

そして、言った。

「美波は…家族のこと、好きだろ?」

突然、そんな質問。

なんで今?

「名医だって言われてるお義父さんも、料理上手なお義母さんも、心臓外科のエキスパートを目指してる兄貴も…」

わけがわからないけど、家族のことは大切だし…うなずく。

仕事ばかりで、家にいることが少ないお父さん。

過保護で、すぐに泣いちゃうお母さん。

あまのじゃくで、素直じゃないお兄ちゃん。

それでも、ずっと大好き。

でも、それと何の関係が…

「…だったら、美波は家族のそばにいた方がいい」

悠ちゃんは、それ以上何も言わなかった。
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