Dear my Dr.
「ただ…手術するとなれば、後遺症を残す可能性もある」

そう言ったのは、お兄ちゃんだった。

「脳外科医の悠哉くんの前で言うのも、失礼かもしれないけど。でも、医療は完全じゃない。もしかしたら、今のように生活ができなくなるかもしれない」

「そしたら…もしかしたら、寝たきりとか…?」

悠ちゃんは、うなずきはしなかったけど、首を横に振るわけでもなかった。

黙って画像を見ているだけだった。

「親父は、何て?」

「2カ月前に勧めた時には、“考えさせてほしい”って」

「もう2カ月も経つんだろ?症状だって出てんじゃねーかよ…」

「放っておけば、今日みたいなことが頻回に起こってくると思う。リスクを考えても、僕としては、オペはしたほうがいいと思うんだけど…」

お兄ちゃんの大きなため息。

悠ちゃんは、私の目を見て言う。

「本当は、美波には内緒にしてて欲しいって、言われてたんだ。ちょうど結婚式の後に、腫瘍の拡大がわかって、手術の適応になって…言おうかどうか悩んだ」

「だから、私もアメリカに行くこと、反対したの??」

「……ごめんな」

「悠ちゃんは全然悪くないし!むしろ、私のお父さんが迷惑かけてゴメンだよ?」

やっぱり、理由があったんだ。

それがわかってホッとした。

「私、お父さんを説得する」

「美波…あのガンコ親父だぞ?そう簡単に“する”なんて言うと思うか?」

お兄ちゃんが半笑いで言う。

確かに、お父さんは他人の意見には耳をかさずに、自分の意見を通す。

そんな人だって、わかってるけど……大事な家族だもの。

知らないフリなんてできないよ。

「だからね、悠ちゃんは先にアメリカに行ってて?私は、こっちに残って、お父さんに手術受けてもらうように説得する」

「美波……」

「で、無事に手術終わって、元気になったら…私もアメリカに行ってもいい?」

「ありがとう」

悠ちゃんはそう言って、私の頬をなでた。
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