Dear my Dr.
お父さんから伝え聞いた内容だけでも、その情景がありありと思い浮かぶ。

当時の悠ちゃんは医大2年生。

“茅島先生のところの賢い次男さん”

そう周りから言われていた。

脳外科に進む人は、医学部のなかでも賢い人が多いっていう。

だから、将来は脳外科にすすむっていう悠ちゃんは、きっとすごく賢いはず。

そんなイメージだった。

たまに会う悠ちゃんは、大人の人に混ざって談笑するようなオトナな人。

ちょうど医学部受験の年だった、うちのお兄ちゃんの不真面目さを見ていたから

“同じ医者でも違う世界の人だなぁ”

なんて思っていたのに。





帰り際のセリフ。

「もしも父さんに手術を受けてほしいのなら、早く安心させてくれ」

お父さんの言葉は、一瞬では理解できなかった。

安心させる?

私は結婚したし、もう安泰のはず。

あんなに優しくて、大事にしてくれるステキなダンナさんだし。

なのに、まだ何かあるの?

それに、まだ気になることもある。

最初は追い返してたのに、結局は悠ちゃんとの婚約に落ち着いてるのはどうして?




朝、悠ちゃんに電話する。

現地時間は夜。

まだ荷物整理とかでバタバタしてるらしくて、声が疲れてる。

「大丈夫なの?」

「美波こそ、そっちは大丈夫?」

そんな悠ちゃんの声を聞くと、今すぐそばに行きたくなる。

そばに行って、ぎゅーってして、癒してあげたい。

…しまった。

メールにしておけばよかった。
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