Dear my Dr.
浩哉くんから聞いた話。

悠ちゃんの、私との婚約の条件。


“もしも長男の秀介が伊崎を継がない場合、キミが継ぐことを約束するか?”


当時は茅島病院を継ぐのは浩哉くんの予定だった。

だから、次男である悠ちゃんは、伊崎を継いだっていいのではないか。

そんな理由だと思う。

でも……

私は、その話を聞いたら、胸が痛くなった。

だって悠ちゃんは、茅島家の息子であることを誇りに思っている。

脳外科医になったのも、お義父さんを尊敬してるから。

それなのに…。

伊崎総合病院は大きい。

だけど、脳外科自体の技術はそれほど専門的じゃないし、難しい症例は茅島病院に紹介されていく。

そんな病院に悠ちゃんを閉じ込めておくなんて、私は許さない。

そんなの理不尽じゃない?

私は、そんな約束のために、悠ちゃんを縛り付けてるんじゃないのかな?

そう思ったら、悲しくなる。





「お父さん、ちょっといい?」

夜遅くに帰宅したお父さん。

玄関でちょうどスリッパを履いていたところ、声をかけた。

…頭を押さえていた。

そういえば、悠ちゃんが言っていた。

“きっと頭痛とか吐き気とか、めまいとかも出てきてるはず”

どうしてそんな状態でも手術を拒むの?

お父さんは私の姿を見て、何度かうなずいた。

「…手術のことか?もう言ったはずだけど、父さんは…」

「病院のことが心配?」

何十年、ヘタしたら何百年と続く、医者の家系。

それを守るために、身を削ってでも医療に打ち込んできたお父さん。

そんなお父さんが、医療を拒否するなんて、おかしいよ。
< 70 / 120 >

この作品をシェア

pagetop