Dear my Dr.
お昼前には、私も家を出る。

お母さんが今度、アトリエを持って料理教室を開くことになったから。

その準備のお手伝いに。

「あら!美波ちゃん、すっかりキレイな大人の女性になってー!」

「こんにちは、母がいつもお世話になってます」

「で、結婚してどう?半年もアメリカに行ってたんでしょ?うまくいってるの?」

ドアを開けるなり、質問攻めをしてきたのは、お母さんの友人。

テーブルコーディネーターをしている絵美子さん。

ご主人はインテリア関係の会社を経営している、いわゆる“お金持ち”の部類。

それなのに、全然気取らなくて、肩の力が抜ける“面白いおばさん”って感じ。

今日は絵美子さんも、お手伝い要員で来てくれているらしい。

「…もー、絵美子さんったら…」

お母さんが奥から出てきて、ちょっと呆れ顔をしている。

「だって、いくら大病院の娘だからって、結婚相手くらい自分で決めたいわよねぇ?」

「ええ、でも私は彼のことが好きだし、結婚してよかったって思ってます」

「それならいいんだけど…辛くなったらいつでも帰ってきていいのよ!?」

「あはは、ありがとうございます」

そんなやりとりを見て、お母さんはちょっとだけ寂しそうに、でも安心したように頷いた。

周りから見れば“かわいそう”とか“大変そう”とか思われてるのかな?

悠ちゃんじゃなかったら、私もそう思ってたかな?



機材の搬入や食器の整理もひと段落。

お母さんが試作をしてる横で、使い終わった鍋やボールを片付ける。

「美波、いいわよ。そろそろ帰らないと、悠哉くんが帰ってきちゃうんじゃない?」

「え?あー…うん…」

時計を見た、その時。

タイミングよくケータイが鳴った。
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