Dear my Dr.
「美波もさ、意外とただのお嬢様じゃないってこと、僕にはバレてるからね」

「え~?たとえば?」

「道端でクワガタ拾って来たり?」

クワガタ…

って!!

「それ、昔のことでしょー!?」

「昔って言っても中学くらいだよ。ちょっと衝撃的だったなぁ~」

「なんで覚えてるのぉ…」

たぶん、何かの集まりの時の、ちょっとした事件のひとつ。

大人たちは真っ青だっただろうに。

「真っ白のワンピース着てて、いかにも“あの伊崎先生のお嬢さん”って感じのくせに、道でクワガタ拾ってきたらビックリするよ」

悠ちゃんの記憶力にもビックリだよ。

覚えておいてほしくないのに…。

「“車にひかれたら可哀そうだから”って言ったんだよ」

「恥ずかしいから、その話はもういいよぉ~っ」

「でもね、僕はその瞬間に、美波が愛おしくてたまらなくなった」

「……へ!?」

変な声出しちゃった。

まさかそこから愛の告白に展開していくなんて、思ってもいなかったから。

「なんて優しくて、勇敢で、天真爛漫な子なんだろうって」

「そんなキッカケで~?」

「男は単純なんだよ。脳外科の解剖生理学的に証明されてる」

私にとっては思い出して欲しくないエピソードなのに…

“解剖生理学的”に、悠ちゃんの記憶にはしっかり刻まれてしまったのか。

ちょっと残念だよー。

「なんか不服?」

「もっとキラキラした思い出ってないの~?」

「えーと、あれは美波が小学生のとき…クリスマスケーキのイチゴを…」

「わぁっ!!やっぱりいい!!言わなくて良し!!」

「あ、そう?残念だなぁ~」

悠ちゃんがニヤリとしたのを見て、なんだか嫌な予感がしていたから。

口止めしておいてよかった…。

このイジワルさんめ。

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