Dear my Dr.

医局

「伊崎さん、やっぱり素敵だわ~!あの玄関に植えてあったお花、何て名前なの?」

奥様たちがにぎやかにおしゃべりしている中、私はせっせと薄力粉の分量を量っていた。

家でじっとしてるのも嫌だから、お母さんの料理教室のアシスタントに来たんだ。

まだ開講したばかりで、知り合いの集まりのような感じ。

でも、お母さんの長年の夢だった。

お父さんと結婚して、ずーっと専業主婦で、やっと子育ても終わって。

その夢を応援したくって。

「美波、家のこと大丈夫なの?」

「大丈夫だよ~、ちょっと抜けてても、悠ちゃん全然怒らないし」

「だめよ?ちゃんとしなきゃ…」

お母さんは心配そうに言うけれど、自由気ままにさせてもらってる。

悠ちゃんも“ちょっとは外の空気吸ったほうがいいよ”って言ってくれるし。

世間がうらやむ“専業主婦”っていうのにも、向き不向きがあるみたい。

私は“専業”じゃ嫌なんだ。

「はい、お駄賃」

教室が終わってひと段落。

帰ろうとすると、大きめの箱を手渡される。

「今日の試食用のタルト。余っちゃったから持って帰りなさい」

「やった!ありがとー」

そう言いながら、さっきも試食したんだけど…太るかな?

しかもホールだし。

……あ、そうだ。

とっさに思いついて、少しだけ足早にアトリエを出た。

向かうのは茅島病院。
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