全て”すき…”から始まった…。
 カオリは、母親の話しを黙って聞いていた。

自分の胸の中が、熱くなってくるのを感じた。

母親の話しは、まだ続いていた。

「カオリちゃんは、何が悲しいの?…」

母親の呼び方が、カオリさんから、カオリちゃんに

変わっていた。



 「…私…今…別居中で…多分、もう…駄目なんだけど、

 ふんぎりがつかなくって…。私もその人との出会いが、

 アルバイト先だったから…いろいろ思いだして…。」


 「うん…。つらいね。少し、話しそれるけど、あのね、カオリって名前はね、

 こんな意味もこめて、つけたの。

 最初、漢字の香里とかが候補にあがったの。でもね、

 私が、カタカナがいいって、言ったの。

 漢字には、意味があるでしょ?私は、その子に、

 自分で、自由に、自分の好きな香り(自分で選んだ生き方)

 を、してほしかったの。だから、自分の納得するように

 生きてほしい。焦らなくていいよ。」


 母親は、そう言った。

 カオリは、初めて聞いた話しだった。

 涙が、カオリの頬をぬらしていた。

 「…邪魔じゃなかった?私の存在邪魔じゃなかった?」


 「邪魔じゃないわ、あなたが生まれてきた事も、

 あなたの成長も、ずっと楽しみだった。

 今でも、そうよ。ただ、私には、引け目があるから、

 あなたの前に立って、あなたを抱きしめる事も

 できなかったけど…。」


 ”愛されていた”


 今までの心の中の、閉じた扉が一つ、

開いたような…そんな感じを、

カオリは、感じていた。



< 106 / 118 >

この作品をシェア

pagetop