全て”すき…”から始まった…。
 「いらっしゃいませ。」

 教えられたように、うどん屋で、今日も働く。

 でも、今日は、亮さんの姿がない…。

 来る時間が、もう、とっくに過ぎてる…。

 気になる…。

 私の心の中でだけ、勝手に亮さんとよんでいる。

 まだ、本人の前では、なんて呼んだらいいか、

 わからず、迷っている…。

 亮さんは、私の事を安藤さんと呼ぶ。

 亮さんに呼ばれるのは、少し恥ずかしく、

 嬉しい。

 仕事中なのに、そんな事を考えながら、

 どんぶりとか洗っていた。


 「わっ!」

 「きゃっ!」

 目の前に亮さんが、立っていた。

 「なに考えていた?彼氏の事でも考えていた?」

 笑いながら、亮さんが言う。

 「彼氏とか、いません。」

 私は、びっくりした勢いで、即答した。

 その私の答え方に、亮さんは、びっくりしたみたいで

 「余計な事、言ったかな?ごめんね。」

 と、私の顔を覗きこぬようにして、謝ってきた。

 ”はずかしい!”亮さんが、すごい近くで、

 顔を見てるのが、すごく恥ずかしい…。

 私は、下を向いたまま、顔をあげられない…。

 「気分、悪くした?」とか、聞いてくるし。

 私は、下を向いたまま、首を横にふるだけで…。

 顔が、どんどん熱くなってくるのがわかるし…。

 やばい…。

 「あっ、タイムカード押してないや」

 そう言って、亮さんは、ここの場から離れていった。

 助かったと、思った…。

 覗きこんだ時の亮さんの心配そうな顔、チラッとしか見てないけど、

 あの顔も、すき…みたい…やばい。

 



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