月光
私の小さい頃は、両親が共働きでほとんど家にはおらず、幼稚園が終われば母親の知り合いの家に預けられる生活だった。

いろいろたらい回しにされてはいたが、必ずしもいい人ばかりでなく面倒見ることが嫌になれば容赦なくハブにされたりということも少なくない。

預けられてた家に一晩二晩泊まる日ほどの苦痛は他にないくらいだった。
寒い部屋の中、母の匂いがしない布団にくるまりながら「お母さん…早く迎えにきてよ…」
携帯電話もポケベルもなかったあの頃。
今なら即電話でもかけて寂しいと訴えていたかもしれない。
そうしていくうちに私はその時からだんだん心を閉ざすようになったのだ。


小さなアヒルのぬいぐるみだけが私の友達…そんな生活が小学校に上がる前まで続いたのだった。

東京に越して最後に預けられたお宅。
3軒向こう、比較的年の近い子供が1人いた。そこの奥さんはものすごく底意地悪かった。
母のいる前ではいいおばちゃんを演じ私だけになれば顔つきすら豹変してしまう。
私を思い切り睨みつけ「あんた…何かしでかしたらタダじゃおかないからね」と、毎度脅かされていた。

その奥さんの一人息子は私の2つ下であったが、やはり蛙の子は蛙。ワガママ放題の挙げ句ケンカになれば全て私の責任にされ、その都度奥さんから折檻を受けるはめになっていた。
通常は布団たたきで尻を叩かれるか、ベランダに放り出されるかどちらか。
ヒドい時は風呂の水に顔を沈められるなんてのもあった。
奥さんは本当に要領よく虐待をする…母にわからないよう傷にならぬ程度に折檻し、精神的な苦痛だけになるやり方。
ましてチクりを入れれば仕返しされるかもしれないので親には言えないという私の考えも見抜いてのことだった。
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