そして僕は恋に墜ちた
ぽっかりと空いた穴の中から、頭上を眺めている様な気分だった。

地上は遠すぎて、僕のいる場所まで光は届かない。

だが、別に明りが欲しい訳でも無く、むしろ薄暗いこの場所の方が、居心地が良かった。


僕はここにいたい。


ここにいれば、今置かれている状況すべてを手放して、何も考えずに眠っていられるのに。




そんな事を思って、頭上をぼんやり眺めていると

突然頭を鷲掴みにされ、強い力に引っ張られて、僕は簡単に現実へと引き戻された。


嫌々目を開けると、少し不機嫌な顔をした大悪魔が、僕の頭を掴んでいる。

僕は、薄暗い穴の底に戻りたい一心で、両手足をばたつかせたが、大悪魔は

『…ふん』

と、鼻で笑うと、今度は左手で僕の首を掴んだ。

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