そして僕は恋に墜ちた
声をかけられても、アリスは振り返らなかった。

相変わらず、悲しげな顔で僕に目を落としているだけだ。



僕はというと、この場から逃げ出したい気持ちでいっぱいだ。

声を聞いて、人影の正体が分かったからではない。

それに、目の端で人影を捉えた瞬間に、それが誰なのか気付いていた。

こんな場面に現れるのは、一人しかいない。

顔は見えなくても、あの冷ややかな笑顔が目に浮かんだ。

いつもいつも、僕が幸せを感じた瞬間に、簡単に暗闇に突き落とすんだ。


そして今回も、僕は心のどこかでそれを察知していた様な気さえした。


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