そして僕は恋に墜ちた
『惨めな姿になって…』

人影は、そう言いながら、僕の方へと一歩踏み出す。

ブーツのヒールが、冷たい床にカツンと音を立てた。

僕の前に立つ人影…大悪魔は、なんだか一段と大きく感じる。

身を屈め、僕に触れようとした時

「シロに触らないで!!」

アリスは、ぱしんと大悪魔の手を払いのけ、僕を守る様に抱き抱えた。

アリスの行動が意外だったのか、大悪魔は驚いた様な顔でこちらを見ている。



僕も、何がなんだか分からない。

僕が驚いたのは、アリスが大悪魔の手を払いのけたからではなく

アリスの腕に、簡単に抱かれている事だ。


わけも分からず、目だけをきょろきょろと動かしていると、部屋の隅に置かれた姿見に目が止まった。



姿見に写るのは、眉間にしわを寄せ一点を睨み付けるアリスと

その腕に抱えられる、生後間もない赤子の姿だった。


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