先生と教官室
口に含んだコーヒーの旨味が口に広がったと同時に、さっきの伊緒との言い争いの事が頭をよぎる。
考えてみれば、伊緒はいつもそうだ。
風邪をひいた時だって、親とのことだって…。
あいつは辛いくせに大丈夫だとかほっとけとか、突き放す言葉ばかり言うんだ。
きっと、親御さんに『嫌い』と言われた時くらいに心が壊れないと、自分の感情を表に出せないのだろう。
だから、些細なことは直ぐに我慢して、自分の中で処理してしまうのだ…。
素直になることは誰かに迷惑をかける事でも、格好悪い事でもない。
それなのに、何故お前はそんなに自分の思ってることを言わずに強がるんだ?
俺に素直になることすら遠慮しているのか?
「でも、最近の片瀬さんは以前に比べて変わったんじゃないですか?」
「まぁ、少しは素直になった気もするが、それでもどこか遠慮しているというか…。」
「んー、そうですね、やっぱり育ってきた環境が影響しているんじゃないですか?」
考え続ける俺に、進藤先生はそう答えた。
「…育ってきた環境?」
それって、つまりは伊緒のこれまでの人生ってことだよな?