先生と教官室
思いっきり眉間にしわを作りながら、恵那が私のほっぺを両手でつねった。
痛い。
けど、恵那の怒った視線の方が痛い。
「何でそんな事いうの!?別に迷惑くらいかけてもいいんじゃんっ」
怒ってるはずなのに、恵那の言葉はすごく優しい。
今言った事も、全部私への優しさがつまってる。
でも今は、その優しさが胸に刺さるようで辛い。
「だって私……恵那に何も話せない。話したいけど、でも出来なくて。…なのに、恵那はこんなにも私に優しくしてくれてっ」
「いいっ!!別に話さなくていいっ!!私が勝手に伊緒の隣にいるんだからっ。だから、迷惑だなんて言わないでよ。そんな事思ってない。」
「恵那……」
優しい。
ほんとに優しい。
止まっていたはずの涙が、また一滴頬を伝って流れ落ちた。
「恵那、ありがと…。」
「さっき聞いた。もういいよ。」
「うん。」
さっきまでの怒っていた表情が嘘かのように、恵那は私に笑いかける。
恵那のこの笑顔好き。
見てると自然と自分も笑顔になってしまうから。
「恵那。」
「ん?」
「いい加減離してよ。ほっぺちぎれちゃう。」
「そんな簡単にはちぎれんっ」
いたずらをする子供のように、恵那はほっぺを引っ張る力を強める。
「い―――ひゃぁいっ!!」
「はっはっはっ」
恵那がほっぺから手を離した時には、私の頬は真っ赤になっていた。
「もー、つねりすぎだよ、」
「あはは、やりすぎたごめん。」
「おいっ」
そう言って2人で笑う、さっきまで泣いてたのが嘘みたいのように。
「よっしゃっ!元気でたね。そろそろ教室もどろっか。」
「うんっ」
恵那に元気をもらった私は、笑顔で教室へと戻る事ができた。