恋夜桜
「…………」
言葉が出てこない。
私の目の前に佇む人は、想像を遥かに越えていた。
年齢は多分10代後半か20代前半。
身長は170くらいだろうか。
さらりとした癖のない黒髪と、色白で、小造りな顔。
涼しげな目もとも相まって、綺麗な人だが少し冷たい印象を受ける。
同じクラスのイケメン・松本を和風にした感じだ。
しかし、和風なのはそれだけではない。
「……なんで着物を着ているんですか?」
「えっ?」
彼は切れ長の一重をきょとんとさせた。
がっくり肩を落とした私から、スクールバッグがずり落ちる。
目の前の人は、どうやら少し残念なイケメンらしい。
名称はわからないけれど、薄墨色の高そうな着物に紺色の羽織という出で立ちだ。
「なぜと言われましても……。私はいつも通りですから、なんと答えればいいのやら」
時代錯誤な彼は柳眉をよせて困っている。
月明かりの下で、私は遠い目をしていた。