恋夜桜
ぼんやりと代わり映えのしない一本道を歩く。
田舎の車道はごくたまに車が通るだけで、寂しいものだ。
少し心細い。
単調に歩を進めていると、そんな気持ちがふと浮かんだ。
すると、
「…………え、」
どこからか、か細い笛の音色が聴こえた。
様々な自然の音に混じるかすれたそれは、気付けたことが奇跡のように儚い。
「何処からなの?」
何となく上を見上げたが、そこには満月の夜空が広がるばかりだ。
私は視線を戻して辺りを見回した。
「あっ……、」
思わず声を上げた先には、大きな桜の樹があった。
歩道の脇の空き地に立つそれは、見慣れてはいるがいつも通りすぎてしまっていたものだ。
特に、いつも全力疾走している夜は、前ばかり見ていて視界にいれたことすらなかった。