恋夜桜
弐
私ははっとした。
「誰!?」
視線を桜にしっかりとあわせ、条件反射的にそう叫ぶ。
私が焦っているのが伝わったのか、控えめな笑い声が満開の桜の上から聞こえてくる。
「あ、驚かせてしまいましたか?」
どこかのんびりした男の話し方に、私は一気に毒気を抜かれてしまった。
なんというか、焦っているのが馬鹿らしくなる感じだ。
「驚くに決まってるじゃん……」
「それは申し訳ないことを、」
なんだろうこの状況は。
私はうなだれた。
もしかすると、否、もしかしなくても、この声の主は天然なのかもしれない。
「いいよ、気にしないで。……それより」
あなたは何者なの?
私は若干のめまいを覚えながら、桜の声に当然の疑問をぶつけた。