と・な・り。


「そんなつもりじゃなくても、そういうことなのよ。それを、隼人くんに無理強いさせようとしている。そんな誰も傷つけあわないで誰かと付き合えるなんて、初めから相手が決まっているような小説じゃないのよ。人は毎日生きて、その中で出会って恋をする。誰に恋をするかなんて、本人にしかわからないの。それを誰かがどうしてうまくなんていくわけないじゃない」


お母さんの言葉に、まるで頭をハンマーで殴られた気分だ。


あたしは別にそういうつもりなんてなかった。


だけど、お母さんの言うことは全部当たっている。


あたしはそのうち、隼人が香取さんをなぐさめて、わかってくれてその中で幸せになりたいなんて自分の都合のいいことを考えていた。


人の悲しみの上で付き合うなんて、なんとなく嫌だったから。


だけど、それはあたしだけの気持ちだ。


隼人はそんなこと望んでもいないし、思ってもいないだろう。


それを押し付けたのはあたし………。


隼人の気持ちなんて無視して。


麻衣もお母さんも隼人の気持ちを1番大切にしろと言っていた。


あたしは、最低だね。


1番、大切にしないといけない人の気持ちを、1番下に置いていた。


他の人の気持ちを優先させて。


隼人が怒るのも無理ないよ。


「お母さん………。あたし………」


「わかった? ちゃんと」


そう聞かれて、コクリと頷くあたしにお母さんはニコリと微笑んだ。


「それなら、今、何を1番にしなくちゃいけないかわかっているわね?」


「うん。隼人に会ってくる」


あたしはそう言うと、椅子から立ち上がると、玄関へと飛び出した。





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