と・な・り。
「とにかく、お母さんは浮かばなくても頭を動かして考えて。今みたいに呑気にしている時間があれば、少しぐらいは構想が浮かんでくるでしょ」
「そんな簡単じゃないの! のれない時は何をしても浮かんでこないの!」
駄々っ子のように椅子に座ったままで足をじたばたと動かしまくるお母さん。
これじゃ、どっちが子供かわかんないよ………。
あたしはフ~ッと息を吐くと、お母さんの椅子の背を持ち、クルリと机のほうへと向きを変えた。
「とにかく、できないんじゃなくて、時間ぎりぎりまではがんばってよ。きっと、長丁場になるだろうから、金井さんの分の食事も用意しとくから」
パソコンに向い始めたお母さんはいきなりうれしそうな顔で振り返る。
「お母さん、カレーが食べたい。カレーがいいな………」
「カレー?」
目をきらきらとさせてあたしを見つめるお母さん。
まるで、わがままな子供がおねだりしているみたい。
「そりゃ…カレーは簡単だから別にいいけど………」
「きっと、美優のカレー食べたら、想像力も膨らんでスイスイッと書けちゃうわよ」
ニコニコととうれしそうに言っているお母さん。
そんなものでスランプから脱出できるのならいくらでも作ってあげるけど………。
きっと、そんなものではどうにもならないということは本人が1番わかってるはず。
それでも、そんな風に言ってくれるのだから、がんばるか………。
「わかった………。今から作ってくる。だから、お母さんもがんばってよね」
「ラジャー!」
額に右手をピシッと置き、敬礼の真似をするお母さん。
だから…そんなことをする暇があるならパソコンに向いなさいって………。
言っても無駄なことだろうから、あえて何も言わず、あたしは仕事部屋から出た。