と・な・り。


「か、金井さん!? えっ!? もうそんな時間ですか?」


あたしは慌てて時計を見る。


お母さんが言っていたのは7時頃だったはず………。


だけど、今はまだ6時半。


えっ!?


どうして?


あたしの心の声を感じ取ったのかその答えを金井さんはやんわりとした口調で話しだす。


『すみません。少し早く終わりまして~』


「あ…え……。いえ、こちらこそ…すみません。今、今すぐ開けますので、ちょっと待っててください」


あたしは受話器を持ったままその場でぺこぺこと頭を下げ、受話器を置いてから玄関へと向った。







 「いや~…、本当にすみません。早く着いちゃって」


家に入ってくるなり、金井さんは頭に手を置き、あはははと笑いながら頭を下げた。


「い、いえ………」


そんな金井さんとは違って逆にあたしは苦笑い。


どう考えてもこっちのほうが悪い。


締め切りを破っているのはウチのお母さんなんだ。


「ところで、先生はどうですか?」


直球でその質問にうつられ、あたしはドキリッとする。


「あ……ま、まあ………」


歯切れの悪い返事をしているとちょうどグッドタイミングなのかバッドタイミングなのか、お母さんが仕事場から頭を掻きながら出てきた。


この仕草をしている時は、頭の中で物事を構成している時。


むやみに話しかけないほうがいいんだ。


ちらりと金井さんを見ると金井さんもそんなお母さんの癖を見抜いているのか、にこにことした表情のままで、話しかけたりはしなかった。






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