と・な・り。

「ムカつくって言ってんの。お前が俺のこと恋愛対象に全く見てないから」


真剣な顔で言われた言葉にあたしはドキッとする。


………だって、その言い方ってまるで………。


ドキドキする胸に手を置き、あたしは隼人から目が離せなくなる。


ブレザーを羽織ながら、ちらりとあたしを見た隼人は突然笑い出す。


「プッ! お前、どれだけ間抜けな顔してんの? 冗談だよ冗談。お前があまりにも俺とは考えられないって思いっきり言ってくるからからかっただけ。第一、お前に言われるよりも先に俺のほうが言いたいっての!」


呆然としているあたしを他所に隼人は腰を曲げ、お腹を抱えて大笑いする。


笑いが止まりそうな気配は一向にない。


はじめは呆然と見ていただけのあたしだけど、時間が経ってくるにつれてどんどんと腹が立ってきた。


「からかったの? あたし、ちょっと、ほんのちょっとだけど………信じちゃったのに!」


両手の拳をプルプルと震わせながら、あたしは視線だけで射殺せそうなほど隼人を睨みつける。


「なんだよ。信じるお前が悪いんだろ。………それに、お前、一応母親なんだから、おばさんの仕事ぐらい手伝ったら?」


支度が終わった隼人はクローゼットをパタリと閉め、ゆっくりとあたしの前を通り、歩いていく。


「そりゃ…、手伝えるものなら手伝うけど………。でも、『恋人のフリをしろ』なんていう突拍子もないことなんて手伝えないよ」


俯きながら言うあたしの頭を軽く叩きながら、隼人が腰をかがめてあたしの顔を覗いてくる。


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