と・な・り。



あたしの問いに無視を決め込む隼人。


すぐに聞かれたくないことがあると黙り込む。


いつまでたっても、こういうところは変わらない。


『ハァ~…』とため息を吐いていると、あたしは今日あったことを急に思い出した。


そうだった…。


一応、断ろうとしたけど、引き受けたことになっていることもあるから、言わなくちゃいけないんだ。


嫌だけど………。


急に言い逃げをした香取さんの顔が浮かぶ。


言わなかったとなると、きっとすごい剣幕で責められるんだろうな…。


なんとなく、想像がついてしまうところが怖かった。




あたしは隣に立つ隼人をちらりと見る。


すると、ほんの少し見ただけなのに、隼人はすばやくあたしの視線に気づく。


「なに?」


ちょっと怪訝な顔をしながら、聞いてくる隼人。


言わなくてはいけないのだけど、言いにくいことなだけに、そんな風に逆に聞かれると困る。


怒るのはわかってるから、少しでも隼人の機嫌を取りながら言いたいんだけどな………。


「そうだ! 隼人っておでん好きだよね!」


大根の皮を剥きながら、隼人に目線を向けずに問いかける。


「……なに? 突然」


いきなり優しく言ったのがまずかったのかな?


隼人は明らかに不審に思っている感じ。


なんとかごまかさないと…。


「いや~…、隼人って昔そんなこと言ってなかったかな~って急に思い出しちゃってさ」


アハハハハ……なんて笑っているもの、隼人の自分に向けている視線が妙に冷たい気がする。


見てないからわからないけど、なんとなく………。


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