と・な・り。
第7章 触れる優しさ
「いってきます」
家のドアを閉めてから、あたしはカーテンの閉められた隼人の部屋を見上げる。
好きだと気づいたあの日から毎日の日課になってしまってるこの行動。
だけど、1ヶ月経った今でもあたしと隼人の関係が元に戻ることなんてない。
それに引き換え、隼人と香取さん、2人の姿を見ることが多くなった。
時には腕を組んでたり、楽しく話してたり。
そんな光景をあたしは見ていたくなくて、2人の姿を見かけると自然と避けてしまうようになっていた。
今じゃ、今までどうやって隼人と話していたかもわからないぐらい。
1度、切れてしまった関係は、どうすれば戻るのかわからないほど薄くなってしまった。
「佐倉さん!」
フゥ~…息を吐きながら歩いていると、前方から名前を呼ばれた。
顔を上げた瞬間、ビクッと体が固まってしまうあたし。
「………香取さん…」
「おはよう。佐倉さんって、ホントに南条くんの近くに住んでたんだね。幼なじみとは聞いてたけど」
フフフ…と笑いながら話してくる香取さん。
あたしは、やけに彼女のその笑い方が耳に付き、顔を背ける。
「香取さんは、どうしてここに? 家、この近所なの?」
「ううん。南条くんと一緒に登校しようと思って」
付き合っているのだから当たり前のこと。
それなのに、ドクッとあたしの心臓が鳴る。
あまりの動悸にあたしはそっと胸に手を置く。
「そ、そうなんだ」
あたし、ちゃんと普通の顔してるかな?
声が震えないように必死に取り繕いながら、あたしは笑顔を作る。
「佐倉さんのお蔭だよ。南条くんと付き合えるようになったの」
両手を握りしめてくる香取さん。
思わず手を振り払いたくなる。
香取さんに悪気なんてないのはわかってる。
だけど、その言葉は今は聞きたくない。
これ以上、話したくなかった。
この作った笑顔さえも、剥がれ落ちてしまいそうで………。