涙、時々ピース
それは、何とはなしに
春の麗らかさなど関係無しに、俺はだらだらとした日々を送っていた。
爺さんから引き継いだ喫茶店『Anna』を、それなりに切り盛りして、それなりに暮らす。
そんな日常だったものだから、俺はてっきり自分の青春なんて、終わってしまったとばかり思っていた。

「八葉(やつは)居るかー!?」

常連で幼なじみの辰巳(たつみ)が、何時ものように平日の昼過ぎに来た。
そして勝手にカウンター席に着くのだ。
何の事は無い。
日常的な光景。

「騒がしいなー、営業妨害ですよ、お客様。」

毎度の事に少々嫌味ったらしく応える。
しかし俺はその直後に、何時もとは明らかに違う事に気付いた。

「…いらっしゃいませー。」

俺は辰巳の後ろに立つ見知らぬ顔に、声をかける。
彼は褐色の肌から白い歯を覗かせて、ニカリと笑うと、どうもと言った。

「あ、こいつは後輩の弘光(ひろみつ)な…んで、こっちがここの店長やってる八葉。」


辰巳に紹介されながら、弘光と俺はお互いにペコペコ頭を下げた。
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