スパイ・ハイスクール
そして山口さんは南側へ、あの猛スピードで向かう。純希の待つ南側へと。
そして、純希を思われる小さな影が見えた。私は祈るような気持ちで、純希がいる南側へと目をこらした。
「止まってぇ」
そう言って、ニコニコと相手を見つめる純希。
しかし、そんな気の抜けた声にも、笑顔にも彼は耳を貸さなかった。
そのとんでもないスピードを生み出している右足で慌ててブレーキをかけ、そのまま今来た方向へ引き返す!
なるべく手荒な真似をしたくないことと、住宅街ということが合わさって、物理的な攻撃は仕掛けられない。
しかし、彼は話を聞き入れる気がないようだ。
誰もが呆然とした。
そして南側の反対、つまり北側へと山口さんは走り出した。いや、あれは最早、山口さんとは言え無いのかもしれない。
なぜなら、人間とは思えない動きなのだから。
そして、あれはもう追って追いつける速さではなかった。
頼れるのは、もう、奏だけーーー。
諦めるような、縋るような。誰もがそんな気持ちになった。
「止まってください?」
そこに、突如として少年が現れた。