スパイ・ハイスクール

「山口さん......。あなた、かなり月を怖がっているようですね?」

「そそそそそそっそんなこと、ありません」

「じゃあ、何故、東へと逃げなかったのですか?」


山口さんが洋服の裾をぎゅっ、と握る。
何かいえないことでもあるのだろうか。

ちらり、と徳佐を見ると、奴も山口さんの手の方を見ていた。


「私を含めた3人は、北、西、南に居ました。その気になれば東側へ逃げることも可能でしょう?」

「ぃや、それは、急に壁から出てきた君に驚いて......」

「でも、逃げることくらい出来たでしょう?」

「......」

「そう、あなたは逃げなかったのではない。逃げる“こと”が出来なかったんだ。



ーーーーーー東へ逃げると、嫌でも視界に月が入ってしまいますからね」


違いますか?と首をかしげて問う奏。
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