スパイ・ハイスクール
◆
私は寮に足を進めた。というかホテルに。
「何これ」
思わず本音が漏れる。そこは一般的な高校生が生活するとは思えないほど豪華なホテルだった。誰がなんと言おうとこれはホテルだ。断じて寮では無い。私が認めない。
生活用品を詰め込んだ大きなバッグも、おおきな玄関を目にした今ではちっぽけなかばんに見えてくる。と、同時に自分は場違いな人間であることを思い知らされる。
ふぅ、と1つ、ため息をはく。
その時。
「............有紀?」
声がした。
震える、声。
ソノ名を呼ぶ声は愛おしくて、でも壊れ物を扱うように弱弱しく、“有紀”の存在を確かめるようだった。
声の発信源には1人男子生徒が居て、私の方を見ている。
「やっぱり......、有紀、だ」
その少年は一歩、また一歩と私に近づく。
あれ、ここって女子高じゃないの?とか、私アナタにあったことありませんけど?とかいろいろ疑問はあるけれど、それよりも引っかかるのは「有紀」という名前。
有紀って......!
「有紀!有紀!生きてたんだね!俺、ずっと信じてたんだ、有紀は生きてるって!」
男子生徒の手が私の両肩をつかみ前後に揺らす。
「有紀ッ!何で何もいわな「ちょっと待って!私は有紀じゃない!」