スパイ・ハイスクール
原は今のアパートに先月上旬に引っ越してきた。職場である学校にも近いし、駅にも近いという理由でそのアパートへの引越しを決めたらしい。
そのアパートは設備、家賃、共に一般的なアパートで、なんら不思議な点は無い。どこにでもあるようなアパート、と言えばいいだろうか。
しかし、その普通である筈のアパートで不思議なことが起こりだしたのはつい1週間前のこと。
いつもより早い午後5時頃に仕事から帰ってきた原は、夕飯をつくり、風呂に入り、寝る、といういつもどおりの行動をとる、筈だった。
筈だった、というのはその日に最初の異変が起こったからだ。
原がその異変に気がついたのは日がすっかり落ちた午後9時頃。風呂から上がり、テレビのスイッチをいれようとした瞬間、急に子犬の鳴き声が聞こえてきたのだ。
このアパートは一般的なアパートで、ペットは禁止。犬の鳴き声なんて聞こえる筈ないのだ。
しかし原によると、外の路地で子犬が鳴いているのではなく、あきらかに近隣の部屋から子犬の鳴き声が聞こえたという。
そこで、すぐに隣接している大家の家に連絡をいれて、次の日に、両隣の住民に確認を取ってもらうことになった。