プ リ ン ス
「夏夜さん……。」




俺は振り向かず、ポケットに手を突っ込み、その場を後にした。






俺が去った後に、たまたま現場を見ていた誰かが呟いた。




「紅月狼……。」




この日は、夏の終わりの暗闇の中で、淡い光を照らす満月だった。






――――…
――――――…




「ねぇねぇ知ってる!?」

「聞いた聞いた!!」

「会ってみたい〜」




教室内がザワザワと落ち着きがなくて煩い。




今日も先生が追い出され、自習になった。




俺は洋書を読みながら眉間に皺を寄せた。




「なぁなぁ聞いたか!?」


前席の桜井が、椅子から身を乗り出して俺に問い掛けてきた。




『なに。』


「紅月狼って奴が青龍の女を救ったって話!!」


『紅月狼?』


「おう!昨晩たまたま見かけた奴がいるんだけど、女が強姦されている所を助けだして、男達を一瞬で倒したんだって!!」


『……。』
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