melt away












「修也、今日飲み行こうぜ」

「ん?ああ…いいけど」

「もっと喜べよ!数少ない友達の葵様が誘ってんだから」


不満げにブーブー言う葵を見ながら少し笑った。


明らかに励まそうとしてる葵がなんだか可笑しくて。

不器用ながらの優しさに上手く応えられない。


「焼き鳥食べたい!」

「うん。葵の好きなところでいいよ」

「まじ!じゃあ焼き肉!」

「…焼き鳥は?」

「気が変わった!」



…こいつもこんな感じで女をとっかえひっかえするのだろう。






会社から2人して出たあと、俺の車で焼き肉屋に行った。


久しぶりに嗅ぐ油の臭いに吐き気がしたけど、せっかく葵が誘ってくれたから我慢した。


とりあえずビールで乾杯して肉を焼く。

ジューと音をたてて焼けていくカルビは美味しそうでたまらない。

お腹は減っている。



…なのに、唇がうけつけない。


ひたすらビールをがぶ飲みした。


「この前あのジジィがさぁ…」


肉を食べながら油が上司の愚痴をこぼす。

共感しながら笑う。

葵の大袈裟な話を笑いながら聞いてたら、こんなもんなのかな。と思った。



優奈が死んで、世界が終わったと思った。

もうあんなに幸せな気持ちになることはないと思った。



………だけど、今ちゃんと笑えてる。


楽しいと思ってる。



…俺の日常って、こんなもんだったっけ?
< 42 / 54 >

この作品をシェア

pagetop