melt away
とりあえず腕にしていた時計を見ると、出勤しないといけない時間になっていた。


顔も歯も会社で洗うか。

風呂…は、我慢だな。

着替えもないし、我慢。

最悪だけど。



それから少し話したあとスーツを着て荷物をまとめた。


「……あの…名前、教えてください。」


………ズキン、とした。

優奈なら、そんなこと聞かないのに。

…違う、やっぱり優奈じゃないって認識したから、痛いんだ。



「……青木修也」

「おいくつですか?」


1つ1つ尋ねられるたびに、違うと言われてるようで


そんなの、心の奥じゃ自分が一番分かってるのに


「……28」


でも、視界に入るそいつは、優奈に似すぎていて

胸が苦しいほどに


「お仕事は何されてるんですか?」

「関係ないでしょう、あなたには」



痛い。


舌打ちをして、睨んだ。


いや、睨んでしまった。


そんな顔して、何で俺に疑問ばっかりぶつけてくんだよ。


そんな顔して、何で俺の前に現れるんだよ。


何でそんなに、


俺の心をかき乱すんだよ。


朝、起きてから数十分で、何でこんなに多くの感情をくれるの?


何で、優奈に似てるんだよ。


せめて、違う顔だったらもっと優しく出来たかもしれない。



せめて、違う顔だったら


いつも通り、一回限りのお礼で終われたかもしれない。


出来ないのは

ただ、顔が優奈に似てるから。


バカみたいな理由だけど、俺には大きすぎて。




…まとわりつく。


蜘蛛の糸のように。
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