melt away
一万円を財布から取り出す。

傷ついた顔を浮かべて俺を見る。


「すみません。詮索されるの、嫌いなんです」


なんて、取ってつけたような理由を口から吐く。

そしてその紙切れをテーブルに置くと、帰された。

台所を見ると、リンゴの皮とナイフが置いてあったから、何かを作ってくれてたんだとわかる。

もう二度と会わないから、受け取ってもらいたかったんだけど。


ウソ。


もう二度と会わないなんて、本心じゃない。


だって今だって、お金を返された時に小さく触れた指が熱を持つ。


泣きそうな顔をしたそいつを。


「そうですか。分かりました。本当にありがとうございました。」


今にも泣きそうなそいつを。


きっと今、泣かれたら、抱き締めてしまう。




優奈を重ねて。



何度も泣いた、優奈を。



器具や、カーテンに遮られて泣いてる優奈に触れることさえ出来なかった。



…………だから



その想いを含んだ俺の腕は………






「それじゃぁ、」



そうならない内に早く。

泣きそうな顔をしてるそいつが何故だかは分からないけど、俺に好意を持ってることは分かった。

これは長年の勘、というか感覚というか。
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