夏の鈴
夏の日、17歳
『あつし、ちょっとこっちに来て』
朝から黒い喪服を着てる母親が手招きをしている
ミーンミーンと庭の木々に居る蝉は声を揃えず、不規則に鳴いていた
家の縁側の戸は全て開けられていて、無駄に広い庭が一望出来る
ヒンヤリとしている縁側の床に座り、あぐらをかきながらうるさい蝉の声を聞いていた
ズズーズズズーと口に加えていたチューペットを全て飲み干した
『あちぃな……』
そう呟き、ワイチャツのボタンを一つ開けた所で
『あつし!!』と母親の怒鳴る声がした
その瞬間、チリンと縁側に吊るされた風鈴が虚しく鳴った
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