夏の鈴
チリン…チリンチリン…
ほのかに吹く風が風鈴を揺らしている
そんな風鈴を暫く見つめた後、俺はもう一度親父を見つめた
休日に必ず着ている紺色のサムエに、老眼鏡
『お、親父………?』
確認するように親父を呼ぶと、『なんだ?あつし』と返答が返ってきた
親父だ…本当に親父だ
親父は死んだはずなのに
『ちょっとあつし、あんた今日晩御飯いるの?いらないの?』
居間の廊下からエプロン姿のおふくろが顔を出した
勿論、黒い喪服ではなく普通の服
夢…じゃない?
俺は突然起こった現実に頭が混乱していた
『ちょっと、早くしてよ。火点けっぱなしなんだから』
いつものようにおふくろが俺の返事を急かす
俺は訳も分からず『いる』と言った
どうやら本当に夢ではないらしい
いや、もしかしたら夢から覚めただけなのかもしれない
親父が死んだ夢
そうだ、俺は親父が死んだ夢を見ていただけ