夏の鈴
俺はゆっくりと立ち上がり、夕焼けに染まった庭を見つめた
随分、リアルな夢だったな……
『あつしが家でご飯を食べるのは珍しいな』
そんな中、新聞のページをめくりながら親父が呟いた
どこか嬉しそうな親父の顔を見て、俺は随分前から親父の顔さえちゃんと見ていなかった事に気付いた
『あつし、こっちに来て座ったらどうだ?少し風が出てきた』
チリンチリン…と風鈴の音が激しく鳴った
親父はテーブルの上座に座っていて、その下には紺色の座布団が敷いてある
俺は親父と少し離れた場所に座り、なぜか気まずかった
親父と二人っきりになるのも、まともに会話したのも久しぶりで……
何を話していいのか分からない
『明日から夏休みだろう?あんまりハメを外し過ぎないようにな』
明日から夏休み…?
俺は居間に飾ってあるカレンダーに目を向けた
日付は7月19日、親父の言う通り明日から夏休みだった
『あつし、いつまで制服で居るの?ご飯食べるなら着替えて着なさい』
居間に料理を運んできたおふくろが呆れた顔で言った
『お、今日はそうめんか。暑い日はいいよな』
『今日隣の人にみょうがをもらったから。涼しくていいわよね』
いつもと親父とおふくろ
“分かってないでしょ!あなたは長男なのよ。お父さんはもう居ないんだからあつしがちゃんと……”
そう怒鳴ったおふくろの姿はどこにもない