夏の鈴


その笑顔はなんとなく、何かを隠しているようだった

風一つない今日の風鈴は静かで、チリンというかん高い音は聞こえない


俺は考えた後、少し距離をとって親父の横に座った

ミーンミーンと庭の木々に止まっている蝉がうるさい

今さら庭なんてまじまじ見なくてもいいのに、俺の目線は真っ直ぐ前を向いたまま

だって隣に座る俺を真ん丸い目で親父が見てたから

誰だって今まで近寄ろうともして来なかった奴が、急に態度を変えたら絶対に変に思うはず


昨日の肩揉みといい、今の行動といい、親父も俺の変化に気付いてるみたいだ

でも親父は深く聞いたりはせず、真ん丸くしていた目は普段の優しい目に戻っていた


『今日も遊びにいかないのか?』

その質問に俺はコクリと頷いた

親父は不思議そうにした後、『友達と喧嘩でもしたのか?』と聞いてきた


『……してないよ。俺が家に居たら変?』


その言葉を言った後で、もう少し言い方を変えれば良かったと後悔した

案の定、親父は『そうだよな。全然不思議がる事じゃないのに…。気を悪くさせてごめんな』と言った


違う、親父が謝る事じゃなくて

俺が一言、言えばいい


今まで家に寄り付かなくてごめんって

思春期という単語のせいにして反抗ばかりしてごめんって

そう言えばいいだけなのに

どうして俺はこんな言葉さえ素直に出てこないんだろう

こんな時でさえ、時間は過ぎていくのに

後七日しか親父と話せないのに



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