夏の鈴



ジワジワと目頭が熱くなるのを必死に我慢した

泣いている時間さえ今は惜しい


『父さんな、実は夢だったんだよ。こうやってあつしとジョギングするの』

親父は少し照れたように言い、さらに言葉を付け加えた


『それを母さんに言ったら、“夢のままで終わらないといいわね”なんて笑われたけど』


親父の口から出る言葉はどれも初耳の事ばかりだ

こんな話を聞く度に1分、一秒、無駄に出来ないと想う


俺は走る足をピタリと止めた

微かに感じていた風がやみ、暑さがジワリと汗になる


『……どうした?』


親父もすぐに足をとめ、数歩先で俺を見つめていた

『……他に何かないの?』

『?』


『夢だよ。俺とジョギングする他に何かある?』

親父がやりたいと思う事を出来る限りやってあげたい

限りがある時間でどれだけ出来るか分からないけど


親父は一歩、二歩と俺に近づき、黒い影が道に並んだ


『……キャッチボール。息子が生まれたらやりたいと思っていたのに、結局今だにやってないからな』

親父が言う夢はどれも小さな事で、俺と共有するものばかりだ


『…それなら明日やろうよ。グローブは俺が用意するから』



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