夏の鈴
『ねぇ、ビールどこ?居間にもう一本もないってさ』
廊下で立っていた所を見つかり、親戚達に雑用を頼まれてしまった俺は仕方なく台所に行った
台所ではおふくろが黙々と天ぷらを揚げていて、油臭い匂いが漂っていた
換気扇の音と油の音で聞こえなかったのかおふくろからの返事はない
『ねぇ、ビール』
返事を急かすと怒ったように『冷蔵庫』と一言返ってきた
おふくろの機嫌の悪さはすぐに分かる
機嫌が良い時はベラベラ喋るのに、一回へそを曲げると無口になる
そうゆう時、俺は絶対に関わらない選択肢を選ぶ
だってこっちまでイライラしてくるし
俺は無言で冷蔵庫を開け、冷えているビールを3本取った
バタンッといつもの癖で冷蔵庫を強く閉める
こんな時はいつも『もっと静かに閉めてよ』と怒られるが…今日はその声が聞こえて来ない
俺はこんな不穏な台所に居るぐらいなら、酔っぱらった叔父さんの相手をしてた方がマシだと思った
ビールを両手に抱え素早く戻ろうとした時、おふくろが油の火を消した
『これもついでに持って行って』
そう言って指をさしたのは、天ぷらが盛られた皿
『両手が塞がってるから無理』
俺は即答で言った