夏の鈴
俺と親父はその後支度をして、家を出た
俺の手には一枚のビニール袋、勿論中身は昨日買ったグローブ
暫く走り、土手に着いた俺達は丘を下り、少し広い場所に移動した
雑草が生い茂ってる空間の隣にはすぐ川が流れている
俺は早速、グローブを取り出しボールとグローブを親父に渡した
『これどうしたんだ?』
予想していた質問
俺は待ってましたというように、『友達から借りた』と言った
『…そうか』
親父はグローブを手にはめて、ボールをパシッパシッと馴染ませた
そして、なぜかクスクスと笑っていた
『な、なに?』
動揺しながら聞くと、親父はニコリと微笑んだ
『いや、なんでもないよ。ありがとうな。あつし』
意味深に言う言葉に、俺はある事実に気付いた
そう言えば親父は野球少年だったって昔聞いた事がある
だからこそ、息子とキャッチボールするのが夢だったんだと思うけど
野球をした事のない俺には分からないけど、使い古したグローブと昨日買ったばかりのグローブの違いなんて沢山あるんだと思う
例えば形とか、例えば匂いとか、例えば手にはめた感じとか
いくら土で汚してあっても、きっと親父はすぐに気付いたんだと思う