夏の鈴



俺は親父と距離をとって、キャッチボールする準備をした

『……じゃぁ行くぞ』

そう言って、親父がボールを俺に投げた…が、上手く取る事が出来ずにコロコロと転がって行ってしまった


簡単に取れると思っていたのに、全然グローブを上手く扱えない


『あつし、ボール投げてみろ』

俺は地面に転がったボールを手に取り、親父に向かって投げた


……するとボールはグローブに吸い込まれるように親父の手の中に入っていった


『ボールを良く見て、親指の付け根より右ら辺で取るようにしてみろ』

親父はそんなアドバイスを言った後、ボールを俺に向かって投げた


俺はその言葉を意識してグローブを構えると、ボールはパシッという音を立てて手の中に入ってきた


『……と、取れた』

ボールの感触とパシッっと言う音が気持ち良くて、なんだか妙にテンションが上がった


『すごいじゃないか。なかなか初めてで取れる奴は居ないぞ』

親父に誉められた事で調子に乗った俺は、再びボールを親父に投げた


パシッ、パシッっと交互に音が響く中、親父がふっとこんな事を言った


『本当にあつしは最近変わったな。何かあったのか?』

ボールと一緒に飛んで来たその言葉ごとパシッと受け取った


きっと親父は俺に聞くタイミングをはかっていたのかもしれない

肩を揉んだ時も、ジョギングを一緒にした時も

何事もないようにしてたけど、誰だって急に態度が変わったら変に思うはずだ



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