夏の鈴



『……ただの親孝行だよ』

俺はそう言ってボールを投げ返した

親父は『そうか』と微笑むだけでそれ以上何も聞かなかった


今、この瞬間も親父との別れが近付いている


…俺はなんでこんなに焦って思い出づくりしてるんだろ

ばかだな俺は

今までたくさん時間はあったのに、本当にばかだ

そんな中、耳に聞こえた親父の声



『あつし、俺が死んだら母さんの事頼むな』

そう言って親父が投げたボールはコロコロと俺の後方に転がって行った

俺の目線は取れなかったボールではなく、親父の方


『な、なんでそんな事言うの?』

ドクン…ドクンと心臓がうるさい

俺は動揺を隠しきれなかった

そんな俺を見て親父はゆっくりと口を開いた


『夫は妻より先に死ぬもんなんだよ』

どうして親父がこんな事を言うのか分からない

でも、でも絶対にタイムリープしなければ聞けなかった親父の本音


『妻に死なれたら夫は生きていけない。だからきっと俺は母さんより先に死ぬと思う。だからあつしがちゃんと母さんを守ってやってな』


俺はやっとあの日から8日遡ってきた意味が分かり始めていた


もしかしたら…後悔してたのは親父も一緒だったのかもしれない

きっと死ぬ前に俺に言いたい事、俺とやりたい事があったと思うから


『……約束するよ。俺が絶対母さんを守るから』

親父の顔は今までに見た事のない程、嬉しそうだった



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