夏の鈴
それなら…俺がこの庭を大切に出来たら、これは俺の財産になるのかな?
それで…俺が結婚して子供が生まれたら、子供にも受け継がれて行くのかな?
植物とか花とか好きな方じゃないけど、きっと大切に出来ると思った
だって俺は親父の子供なんだから
『…明日晴れたら色々教えてよ』
雨音でかき消されないように必死に声を張った
『……何をだ?』
新聞をめくる手を止めて、親父は俺の方を見た
『庭の手入れの仕方だよ。色々やる事があるんでしょ?』
俺は親父みたいに器用じゃないし、全然マメなんかじゃない
もしかしたらすぐに枯らしてしまうかもしれない
でも…この庭がある限り、親父は何度だってこの家に帰ってくると思うから
『……明日は30℃越えるらしーぞ。熱中症でぶっ倒れるなよ』
親父の目線はまた新聞に向いていたけど、口元は笑っていた
ザーッと雨が今も庭を濡らし続けている
セミは鳴いていないけど、どこからか来たカエルの声が聞こえた
その音に混じってチリン…と風鈴が揺れる
俺は…後悔しない日々を送れているのかな?
それで…明日も後悔しない1日を過ごす事が出来るのかな?