夏の鈴


『雑草って抜いても抜いてもキリなくない?』

子供染みた発想

すると親父は親父らしくサラリと答えた

『そうゆう地道な事が大切なんだよ』


親父はそう言いながら、雑草を抜く手を止めなかった

『これが終わったら鉢植えに入ってる花を土に植え替えて水をあげよう』

庭の手入れをしている親父はなんだか嬉しそうで、その横顔は生き生きしていた


俺もその横で雑草を抜いてみた

考えてみれば草に触れたのは久しぶりで、茶色い土はひんやりと冷たかった


汗がじんわりと出てきて、額から頬に流れる

だけど不思議と気持ちいいと感じられる汗だった

日よけ代わりの麦わら帽子のツバを少し上にあげ、太陽を見上げた


今日も暑い

明日も暑い

明後日もきっと暑いだろう

だけど、明後日に流れるものはきっと汗だけじゃない


『………親父は……』

喉の奥から振り絞った言葉は無情にも避け切られてしまった


『二人ともスイカ切ったから食べてね』

縁側にスイカを置きながらおふくろが言った


親父は汗を手で拭い、立ち上がった

『せっかくだから食べようか。母さんの事だからきっとキンキンに冷えてるよ』


俺は『うん』と言って腰を上げた

おふくろが遮らなかったら…俺は言いたかった事を言えたかな?


いや、きっと言えなかった

もう少し、もう少しだけ現実から逃げていたいから


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