夏の鈴
その後おふくろは俺に何か言い掛けたけど、結局何も言わなかった
居間に向かう途中、千代子さんにすれ違った
『あらあら、大荷物ね。大丈夫?』
ビールのビンは見た目通り持ちづらく、3本とも両手で抱えるしかない
『大丈夫、大丈夫』
俺の腕はビンの水滴でビチョビチョだった
親戚の中でも千代子さんとは割りと良く喋る
気軽に話しかけてくれるし、なんたって優しい
千代子さんには子供が居ないから、余計に俺を可愛がってくれるのかもしれない
『理恵さん台所に居た?』
理恵というのはおふくろの名前
『あーうん、居たよ』
俺がそう言うと千代子さんは台所に向かって行った
俺には不機嫌だったけど、きっと千代子さんには普通に接するんだろうな
まぁ、それが普通だけど
居間に着く寸前、俺は親戚の一人に呼び止められた
それはおふくろのお兄さん、つまりこの人も叔父さん
『あつし、ビールもういいよ。このままじゃ夕方までにグダッちまう』
せっかく持ってきたのに…と思ったけど、こっちの叔父さんとはあまり話した事がなく言い返せなかった