夏の鈴
縁側に腰掛けた俺と親父はおふくろが用意したお手拭きで手を拭いた
スイカは親父の言う通り、キンキンに冷えていて暑い日に食べるのは最高だった
『母さんもこっちに来て食べたらどうだ?』
居間に座っていたおふくろを親父が呼ぶ
『あら?そう?』
おふくろは俺達の後ろに座り、スイカに手を伸ばした
俺達の頭上でタイミング良く風鈴が鳴った
冷えたスイカに風鈴と夏の風物詩が揃った所で、おふくろが思い出したようにクスリと笑った
『なんだか懐かしいわね。昔は夏になるとこうして三人でスイカ食べてたよね』
チリン…という風鈴が昔の記憶を連れてくる
そう言えばそうだった
小さい頃はよく、こんな風に縁側に三人で並んでいたっけ
線香花火片手に誰が一番長く火の玉が落ちないか競争なんかして
『今日の夜花火でもしようか。たまには夏らしい事しないと』
俺が言いたかった事を親父が言った
『そうね。食べ終わったら母さんが買ってくるわ』
もう戻れないと思ってた日々
戻る事なんてないと思ってたあの頃の事
突っ張って、反抗ばかりしてきた俺だけど、
今日だけはあの頃に戻って…子供みたいにはしゃいでもいいかな?
その夜、約束通り三人で花火をした
線香花火で勝ったのは親父
別に景品なんて出ないのに、親父はものすごい喜んで…
逆におふくろと俺は“もう1回やろう”なんて言ってみたりして
俺はきっと絶対この瞬間、この夏の事は忘れないと思う